帯広畜産大学の白いエゾリス(まとめ)
帯広畜産大学の白いエゾリスは「白ちゃん・白いリス・白リス ・白リー」などと呼ばれ、話題になったエゾリスです!十勝地方ではエゾリスが多く生息し、身近な公園や神社、そして帯広畜産大学の構内でも見ることができます。エゾリスの姿は「エゾリス」欄で紹介した通り、通常は全身茶灰色でお腹の部分だけが白色をしていますが、2017年秋にこの全身が白いエゾリスが発見されました。
この個体はアルビノと言って「メラニンの生合成に関わる遺伝情報の欠損により、先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患がある個体」の事を言います。アルビノの特徴として皮膚や毛が白く、目は血管が透けるため赤く見えます。(→Wikipedia)
2021年春頃までのおよそ4年間の生存が確認されています。SNS時代もあり有名になった白いエゾリスの生涯をまとめてみました!貴重な子育の写真もあるのでご覧下さい。(大変多くの方に写真・情報のご協力をいただいております。)
目次
2017年秋頃に白いエゾリスを発見!
2017年秋にSNSの投稿により、白いエゾリスがいることが確認されました。帯広畜産大学は国立大学なので、出入りが自由にできます。体育館近くの広場で良く目撃されていました。これがその当時の写真です。チョウセンゴヨウ松の実を美味しそうに食べていました。校内には何本かのチョウセンゴヨウ松の木とクルミの木があり、エゾリスが生息するには申し分ない環境です。
この当時の姿を見ると少し小柄で、顔も幼い気がします。おそらく2017年春頃に産まれた個体なのは間違いないと思います。
実は、過去にも白いエゾリスが出ていたことはあるそうで(別の場所で)、写真が残っていたり、アイヌの方の書記などにも出てきます。しかし、昔は情報を得ること難しく、そういった証拠が簡単に世に出てくることはありませんでした。近年はSNSの普及により情報が手に入りやすく、多くの人の耳に入るようになったことが影響し、しかも4年近くも生きたことで、帯広畜産大学の白いエゾリスは有名になったのでしょう。
白いエゾリスの性別はメス!
生存が確認されてから気になったのが性別でした。メスであればある一定の縄張りを持つため、現在行動している場所の周辺で今後も行動することが予想されます。しかしオスであれば行動範囲が広いため、時期によって餌がある場所、メスがいる場所を求めて行動し、探すことが難しくなります。
エゾリスの性別の見分け方は立ち上がった時の生殖器の有無です。次の写真を見るとわかると思いますが、オスは立ち上がるとピンク色の生殖器が真ん中にあります。
このことから白いエゾリスが立ち上がった時の写真を見て「メス」ということが分かりました。次の写真をご覧ください。
また、この時はあと数年も生存すると、誰も思っていなかったので「冬毛になるまでは」「雪が冬までは」なんとか生き延びてほしいなと祈っていた方が沢山いました。
貯食を朝~夕方まで頑張る!デザートはオンコの実!
2017年はチョウセンゴヨウ松の松笠が豊作でした。この時期はチョウセンゴヨウ松の松笠の殻をむき、実を食べたり貯食したりを繰り返します。不思議なことに他のエゾリスは昼を過ぎると見かけなくなるのに、この個体の個性なのか、メスだからなのか理由がわかりませんが、朝から夕方まで貯食していました。働きものだったのです!
また、チョウセンゴヨウ松の実を貯食している途中に「オンコの実(イチイの実)」を食べに行くことがありました。デザート感覚なのか、ただの水分補給なのかわかりませんが、毎日必ず食べに行ってました。白と赤と緑で・・・まるでクリスマスツリーを想像するような色合いです。
キノコも食べる!食べ残しは枝に隠す!
行動から分かったのは、エゾリスはキノコを食べるということです。しかもちゃんと匂いを嗅いで食べ頃を判断して食べるのです。そして大きいキノコの場合、食べきれなかったものは埋めるのではなく、枝に挟んだり、置いたりしていました。
次第に食べ物が少なくなり、気温が低くなって冬が近づいてくると、エゾリスの冬毛もぐんぐんと伸びてきます。この時期は埋めたクルミの実などを掘り返し、食べる姿が見られました。早いエゾリスだと11月下旬にはしっかりと冬毛になります。次の写真は10月の中旬頃です。耳毛がまだ半分ぐらいな気がします。
巣材を集める!そして初めての冬を迎える!
10月末になると、冬を越すために枝を集め、その枝の塊の中に暖かな巣材を集める姿がありました。何度も何度も丁寧に巣材をくわえて運びます。
そして11月になると冬毛でふわふわとした可愛い姿になります。周りには広葉樹の色付いた葉が落ち、隠れる場所が少なくなる季節なので、天敵に襲われないか心配になります。
十勝は「十勝晴れ」と言う言葉があるぐらい晴れの日が多く、雪が少ない地域です。本来、茶灰色をしたエゾリスは枝の上では、枝に同化し天敵に見つかりづらいのですが、白いエゾリスの場合、枝の上だと目立ってしまいます。真っ白な雪の上なら周囲の風景に溶け込むため、雪が降り、根雪(積もった雪が春の雪解け時期まで解けないこと)になることが待ち遠しかったのを覚えています。
雪が降ったあとの姿はこちらです。やはり雪でカモフラージュされていました。
初めての春!新芽が美味しい!桜と一緒に!
2月下旬になると寒さが緩み、毛替わりの時期を迎えます。毛繕いをしたり、新芽や樹液を舐めたりする姿を確認できました。
そして繁殖行動を終えたからなのでしょうか?3月末に巣材を運ぶ姿が見られました。何度も往復をし、チョウセンゴヨウ松の木に巣を作っていました。エゾリスは木にできた洞(うろ)も巣にしますが、帯広畜産大学の構内には巣になりそうな洞がほとんどないことから、子育て時期と越冬時期には自ら巣を作る姿が見られました。
そして4月になります。北海道の桜の開花は4月末に函館から始まります。帯広は例年通りだと4月末から5月上旬にかけて咲き、ゴールデンウイークあたりが満開となります。校内にもエゾヤマザクラの木があり綺麗に咲いていました。この時期は新緑や貯食した食べ物を掘り返して食べる姿がありました。
そしてこの2018年の春は怪我をしてしまったのか、尻尾の先がはげてしまっているように見えます。なにか天敵に狙われたのでしょうか?結局、秋の冬毛が生えてくる時期になると元の尻尾に戻るのですが、それまで少し寂し気な尻尾をしていました。この5月の時期は食べるものが増えてきて、小さな松笠を食べたりしていました。
新緑と共に成長!桜の実を食べる!
そして緑で覆われる時期になり、桜の実が食べごろをむかえると、好んで桜の実を食べていました。
そしてタンポポが綿毛になる時期でもあります。綿毛は同じ「白色」をしていて綺麗な写真になりました。
初めての繁殖期!実はたった一度だけ子育てに成功!
エゾリスの繁殖期は2月~3月にかけてです。この当時、交尾があった日は全く分からないままだったのですが、ある日おっぱいが出てきていることに気が付きました。確実に妊娠していることに気がついたのはこの時期です。
しかし、子育て時期のエゾリスは行動が不規則になることがあり、なかなか姿を確認できない日が重なりました。出産した直後だったのでしょうか、1日中姿を確認できない日もあり一時は死亡説が出たほどでした。しかし、ちゃんと生存しており、しっかりと子育てをしていました。
6月に入ったある日、昼頃に子供を連れて引っ越す姿に出会いました。子供は3匹でしたが、最後まで引っ越せたのは2匹でした。一枚目の写真は3匹いるのがわかりますか?2枚目の写真は引っ越しの最中です!2匹しかいません。その後、すべての年で交尾を確認していますが、他の年は子育てが成功することはありませんでした。つまりこの2018年が唯一、子孫を残した繁殖期となったのです。
エゾリスの引っ越しは子リスが小さいうちは母リスがくわえて、マフラーのように首につかまり運ぶ姿が見られますが、こちらの子リスはあと少しで独り立ちできるほどの大きさに成長していました。引っ越しが終わると白いエゾリスは新しい巣に巣材を集めていました。無事に引っ越しを追えたようです。
クルミの実は大好物!気が付けば1年が経過!
7月が経過し、8月になると大好物のクルミの実が食べごろをむかえます。エゾリスは顎の力が強く沢山のクルミの実を持つことができます。たまに落としてしまうこともあるので、この時期に胡桃の木の下を歩くときは気を付けて歩きましょう。
そしてクルミの実が終わると、オンコの実とチョウセンゴヨウ松の実も食べごろをむかえます。去年よりも大量の実があるオンコの実(イチイの実)です。
このように無事に1年を迎えられたのです。その後、2021年4月までは生存が確認されています。体育館の前の広場を中心として行動しますが、2019年から生協側のクルミの実を食べに行き、2020年から野球場側の落葉松に餌を探しに行ったり、行動範囲を広げるようになります。帯広畜産大学の構内の餌場が把握できて来たのかもしれません。
さらに2019年、2020年、2021年は交尾がそれぞれ写真家によって確認されていますが、巣穴から子リスが出てくるまでは確認が取れていません。
エゾリスは交尾から出産までは約40日間と言われています。次の写真は2021年の交尾から38日目と41日目です。38日目はお腹が少し膨れていて、41日目はお腹がへこんでいるように見えます。とはいえ、あくまでも憶測であり、実際の子供の姿を見ていないので、出産したかどうか真実はわかりません。
ただ、その後のおっぱいのはり具合を見ると子育てしているようにも見えます。しかし、それでも子リスの顔は見れなかったということを考えると、野生動物の子育てはそれほど難しいのかもしれません。動物によっては過度のストレスで子供を殺してしまうこともあるそうですので、そうではなかったことを願うばかりです。
その後の白いエゾリスの貴重な写真
春の写真
巣材集め(春)
繫殖行動(交尾)の後、子育てのための巣を作ります。この時期は天敵に襲われないように何か所かに分けて巣を作ります。作ってもカラスに壊されてしまう場面を何度か見ました。
睡眠中
春は暖かくなり、体が楽に過ごせる季節でもありますが、冬の疲れが出てくる季節でもあります。エゾリスも人間と同じでしょうか?睡眠中の姿がありました。
樹液
冬から春にかけて樹液が出てくる季節です。どれだけ甘い(美味しい)のでしょうか?白いエゾリスはこれを舐めていました。
毛繕い
早いエゾリスは2月の上旬頃より換毛期をむかえます。暖かくなるにつれて毛繕いの回数が増えてきます。冬毛はとても可愛いので抜けていくのに少し寂しさを感じていました。
新芽&フキ
新芽を器用に食べる姿と、授乳中に水分補給で食べると言われているフキを食べる姿です。
夏の写真
クルミの実
大量のクルミの実をつけた房を持ってくることがありました。欲張って重い房を持ち、重さに耐え切れずに落としてしまうこともありました。
昆虫を食べる
エゾリスは昆虫を食べます。羽化したばかりのセミを食べている写真です。
秋の写真
チョウセンゴヨウ松の実
松笠はクルミと同じで大好物です。高い松の木に登って自ら落としてくることがあります。かなりの重量がありますので、下を歩くときは注意が必要です。落とした松笠は松脂を口の周りにつけながら丁寧に一枚づつ殻をむいていきます。
貯食
自分の行動範囲のいたるところに貯食を行っていきます。大学構内の広い範囲で行動が見られました。校内で交通事故にならないように学生さんや職員さんは車の運転に注意していました。
紅葉
秋の紅葉の中で撮影された姿です。カラマツの葉が黄色に色付きその中で休む姿がありました。2枚目は桜の紅葉を背景に撮影した写真です。
晩秋
秋の終わりの姿です。日が短くなり朝の暗い木々の中でクルミの実を食べる姿がありました。季節外れのタンポポの綿毛の茎を食べる姿がありました。
冬の写真
冬芽
冬の貴重な食糧、松の冬芽を食べる姿がありました。雪の降った日は松に積もった雪を落としながら動き回り、隠したクルミや冬芽を食べていました。
雪
十勝地方は北海道の中で雪が少ない地域です。冬季のエゾリスの行動時間は午前中の短時間に限られますので、この行動時間帯で雪が降っている日は少なかったです。新雪降った日は地面に降りることを嫌がり、行動時間になってもなかなか地上に降りてきません。松の枝の間に隠した餌などを探して過ごすことが多かったです。積雪が少なければいつも通り地上で行動していました。
繫殖行動
2月になると繫殖行動(交尾)をしていました。寒さが緩む2月になると繁殖スイッチが入るのか、発情したオスがメスを追いかけるようになります。白いエゾリスは毎年2月になると、数匹のオスのエゾリスに追いかけられる姿がありました。
以上「帯広畜産大学の白いエゾリス」のまとめでした。野生動物が自然を生きていくには季節に合った行動をし、何に対しても自分で対応していく必要があります。小さな体格で力強く生きている姿を見ると勇気づけられますね。
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